珪藻類のライフサイクル(伊佐田 智規編)

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珪藻類は、分類学的には不等毛植物門とかオクロ植物門と呼ばれる大きなグループに含まれる微細な藻類。コンブもこのグループに含まれるので、珪藻もコンブも大きい括りでは同じ仲間になるそう。珪藻類は沿岸から外洋、北極・南極の様な極地から暖かい熱帯域、淡水、光が届く浅いところの海底、強酸性から強アルカリの環境など、ありとあらゆる場所に生息しているそうです。水中に浮かんで生活する浮遊性の珪藻だけでなく、水分は必要としますが樹皮や川岸にある石の上、コケの上、アイスアルジーと呼ばれる海氷、コンブやアマモなどの葉の表面、クジラ表面などに生育する付着性の珪藻類もたくさん生息してているとおっしゃっていました。水環境の光合成生物として極めて重要な地位を占めていて、地球上の光合成量のおよそ20〜25%を担っていると言われているとか・・。
珪藻類の最大の特徴はガラス(珪酸質)でできた2枚の殻(被殻)で細胞が覆われていること。このガラスの殻の模様や構造がとても多様、かつ極めて精細な構造となっているのです。殻の形は様々ですが、大きく2つに分けられるそう。一つ目は放射状に模様が広がる<中心類>、もう一つは模様がある中心線に沿って左右対象に見える<羽状類>。道東近くを例にすると親潮域や沿岸親潮域など少し岸から離れた海域では中心類が多く、厚岸湖の様なアマモやカキ・アサリ養殖がされている浅い海域では羽状類が多いそう。いずれにしても、多くの餌資源になっているのが珪藻類なのです。
次にどの様に珪藻類が増えていくのか?「中心類、羽状類と分けられるのですが、どちらも殻がお弁当箱の様な形をしています。ご飯やおかずが入っている下の部分に、一回り大きな蓋が上に被さる様な形です。このお弁当箱がどんどん分身の術の様に増えていくのです。多くの生物は成長するに従って体が大きくなっていくのですが、珪藻類は分裂するごとに小さくなっていきます。分裂の仕方は、お弁当箱が一旦2つに分かれます。蓋と、その内側にある蓋より小さな下の箱。2つに分かれた物のうち、元々の蓋については内側にまた箱を作ります。これは、大きさは変わりません。でも、もう一つの元々内側にあった蓋より小さな箱では、その内側に箱を作っていくので、元々の大きさより小さくなります。ですから、細胞分裂を繰り返すだけ、サイズがどんどん小さくなると言う不思議な成長をしていくのです。」これを無性生殖による細胞分裂と言い、サイズは小さくなるのですが、遺伝情報はずっと同じ。そして、ある時点でこれ以上小さくなれない大きさになると、遺伝情報を半分にして精子、卵を作り、増大胞子と呼ばれる元の大きさに回復させるための有性生殖を行うのです。そして、元の大きさに戻ったら、また細胞分裂を行う・・・。そのサイクルを繰り返す生活様式(生活環)ライフサイクルを送っているそうです。すごいですよね。ただ、もっと面白い戦略をとる珪藻もいるとか・・。
環境条件が悪くなった時に不適な環境を乗り切るために<休眠胞子>や<休眠細胞>と呼ばれる特殊な細胞を形成する時期をもつ珪藻もいるそうです。道東の沿岸や親潮域でもスケレトネマ属(Skeletonema属)、キートケロス(Chaetoceros属)など休眠胞子作る珪藻がいて、環境が悪くなると殻に空いていた穴も閉じたり、殻を厚くして動物プランクトンに食べられにくくしたりと、通常の栄養細胞とは全然違う形になって海底へと落ちて行くと教えていただきました。休眠期からいつ発芽するのか、復活するのかについては、光や水温、栄養塩環境等 種類によって様々。いずれにしても、次の環境が良くなった時に増殖するチャンスを伺う生存戦略をとっているのです。休眠胞子は、何百〜何千万前の海底の堆積物からも確認されるくらいしっかりとした殻を作っているので、地球の歴史を知る上でもとても重要な物となっています。植物プランクトンの生き延びるための様々な戦略・・・びっくりすることばかりです。
※写真は伊佐田智規氏にお借りしたものです。
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