ヨウスコウカワイルカと絶滅(笹森 琴絵編)

①中国科学院のバイジー 笹森.png②科学院のバイジー  笹森.png③長江の様子とスナメリ  笹森.png
「昨秋、ある取材を受けました。2006年11月に参加した中国の長江の調査についてでした。」と始まった今回の収録。20年近くを経てもまるで昨日のことのようにさまざまな出来事や調査仲間たちの表情を鮮やかに思い出している自分に驚いたとおっしゃっていました。ヨウスコウカワイルカの他にも、インダスカワイルカ、ガンジスカワイルカやアマゾンカワイルカなどもいて、総じてカワイルカと呼ばれているそう。もともとは浅い海にいたのが、川に入り込んで暮らすようになったようです。
ヨウスコウカワイルカは、揚子江、今の長江にのみ暮らしていたイルカで、体長2mほどの灰色と白の組み合わせが儚げな生き物と。。。総じてカワイルカの特徴は、目がほとんど見えず、細長いクチバシを持っていること。笹森氏、野生のヨウスコウカワイルカには会えなかったそう。漁具による大けがで中国湖北省武漢の中国科学院水生生物研究所に保護され、約20年間をそのプールで過ごした個体に1997年に逢ったそう。「チーチーと名付けられたオスでしたが、本当に美しかったです。」
当時、2006年に中国長江に6カ国の研究者らが集まり、三峡ダム直下から河口の上海までを往復。ヨウスコウカワイルカ(中国名のバイジー)という生き物を探索するのが主目的。併せて長江の水質、船舶交通量など棲息環境についてもデータを集めたそうです。結果、38日かけて、一頭も確認することができず・・・。調査団はバイジーが個体数を維持・回復する能力を喪失した状況、つまり機能的絶滅状況にあると宣言したのです。「豊富な経験を誇るメンバーが当時最新の技術と知識を携えて集結し、長年この種の保全に尽力してきた中国の研究者らと共に情熱を燃やした果ての結果なだけに、メンバーは皆、大きな衝撃を受けました。」
笹森氏は、過剰な水上交通や汚染、漁業といった人間による活動が他の生き物を存続の危機へと追いやり、ついにはこの地球から消し去ったことを確認したとき、私たち人間の傲慢さに慄いたと。そして私たちが確認したのは、地球上で日々起きている絶滅のほんの一例に過ぎないという現実にも・・・。
絶滅の頻度とはどんな感じなのでしょう?「たとえば、1年間の生物の絶滅種の数は、恐竜時代は1年間に0.001種、1000年前は0.1種、100年前からは1年間に1種、そして現在では1年に4万種、1日では約100種だそうです。」すごい勢いで絶滅しているのです。あまり身近には感じないという方が多いと思います。
動植物の絶滅は本来、自然の摂理としてあって然るべきものですが、現在起きている現象は、自然の摂理から大きく外れています。絶滅のスピードをぐんと加速させたのは、人間活動、つまり開発や温暖化、各種汚染、そして過剰な搾取などと考えて間違いないでしょうと笹森氏。
「絶滅を免れたもの、絶滅してしまった存在について、私たちは例えその名を知ってはいても、いつ何が、なぜ、どのように起きたのかは知らずにいるし、知らなくても見かけ上は支障なく生活していけます。ヒトさえ生きていれば、地球はそれで大丈夫なのでしょうか?取材をきっかけに改めて色々考えました。」
実は、取材を受けたのは、
岩波書店の川端裕人著<おしゃべりな絶滅動物たち>という本のためだったのです。そこには笹森氏の証言も記述されています。「ドードーやステラーカイギュウ、そしてバイジーなどかつて地球の仲間だったものたちの声なき声に耳を傾け、近代の絶滅がいかに起きたかを最新の科学的知見や歴史、現場の証言などから紐解かれ、ページをめくるごとに人と動物の未来を憂う気持ちが強くなる、そんな胸に迫る一冊です。」
※写真は笹森琴絵氏からお借りしました。
※音声はこちら・・・https://open.spotify.com/